デューラー「祈る手」のエピソード
- THIRD PLACE 制作部
- 3 日前
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今回は絵画にまつわるエピソードと絵画模写、ちょびっとAIのお話。
デザイン専攻だった私はたまに無性に絵を描きたくなると、学生時代のデッサン用の鉛筆を持ち出し無心にデッサンしたり模写をしたりしています。

こちらはちょっと前に描いたデューラーの「祈る手」という作品の模写。
ドイツ・ルネサンス期を代表する画家であり版画家でもあるアルブレヒト・デューラー(Albrecht Durer:1471-1528)。「祈る手」という作品、私の画力は置いといて、お世辞にもきれいとは言えないけれど、さまざまな思いが込められた、苦労を重ねた懸命に働く人の手にみえませんか?
この作品にはこんなエピソードがあるのです。
舞台は500年余り前のドイツのニュルンベルク。子沢山の貧しい鍛冶屋の子として生まれたデューラーには画家になりたいという小さな頃からの夢がありました。
しかし、デューラーには絵の具やキャンバスを買うお金もありませんでした。
彼は同じ境遇で画家を目指すハンスとともに版画を彫る親方の元で見習いとして働いていましたが、毎日忙しく絵の勉強ができません。思いきって絵の勉強に専念したいとも思いましたが、働かずに勉強できるほどお金の余裕はありませんでした。ある時、ハンスがデューラーにこんな提案をします。
「このままでは2人とも画家になる夢を諦めなくてはならない。でも、僕にいい考えがある。1人ずつ交代で勉強しよう。1人が働いてもう1人のためにお金を稼いで助けるんだ。そして1人の勉強が終わったら今度は、別の1人が勉強できるから、もう1人は働いてそれを助けるのだ」
どちらが先に勉強するのか、2人は譲り合いました。
そこでハンスはさらに提案します。
「デューラー、君が先に勉強してほしい。君の方が僕より絵がうまいから、きっと早く勉強が済むと思うんだ」
ハンスの言葉に感謝したデューラーはイタリアのベネチアへと渡り絵の勉強を始めます。一方ハンスは稼ぎの良い鉄工所(※炭鉱との説も)で仕事をはじめました。デューラーは、「1日でも早く勉強を終えてハンスと代わりたい」とハンスのことを思い、寝る時間も惜しんで絵の勉強をしました。残ったハンスはデューラーのために早朝から深夜まで重いハンマーを振り上げ、倒れそうになるまで働きお金を送りました。 1年、2年と年月は過ぎていきましたがデューラーの勉強は終わりません。勉強すればするほど深く勉強したくなるからです。ハンスは「自分がよいと思うまでしっかり勉強するように」との手紙を書き、デューラーにお金を送り続けました。数年後ようやくベネチアでも高い評判を受けるようになったデューラーはニュルンベルクに戻ります。
「よし今度はハンスの番だ」手を取り合って再開を喜んだのもつかの間、デューラーはハンスの手を握り呆然とします。なぜならハンスの両手は長期間にわたる力仕事で変形し、絵筆がもてない手に変わってしまっていたのです。
「僕のためにこんな手になってしまった」そう言ってデューラーは嘆き悲しみました。 自分の成功は友達の犠牲の上に成り立っていた。彼の夢を奪い、僕の夢が叶った。その罪悪感に襲われる日々を過ごしたデューラー。
「何か僕に出来ることはないだろうか」「少しでも彼に償いをしたい」という想いで、もう一度ハンスの家を訪ねました。ドアをノックしましたが、応答はありません。でも、確かに人がいる気配がします。部屋の中から小さな声も聞こえてきます。デューラーは恐る恐るドアを開け、中に入りました。するとそこにはハンスが静かに祈りを捧げている姿がありました。ハンスは歪んでしまった手を合わせ、一心に祈っていたのです。「デューラーは私のことで傷つき、苦しんでいます。自分を責めています。神さま、どうかデューラーがこれ以上苦しむことがありませんように。そして、私が果たせなかった夢も、彼が叶えてくれますように。あなたのお守りと祝福が、いつもデューラーと共にありますように」
デューラーはその言葉を聞いて心打たれました。デューラーの成功を妬み恨んでいるに違いないと思っていたハンスが、妬み恨むどころか、自分のことより、デューラーのことを一生懸命祈ってくれていたのです。ハンスの祈りを静かに聞いていたデューラーは、祈りが終わった後、彼に懇願しました。
「お願いだ。君の手を描かせてくれ。君のこの手で僕は生かされたんだ。君のこの手の祈りで僕は生かされているんだ!」
こうして1508年、友情と感謝の心がこめられた「祈る手」が誕生したのです。
いかがでしたか?
このエピソードには諸説あるのですが、概ねどの説も似た感じです。
時代背景も国も文化も異なりますが、私たちにも描き手の想いみたいなものって伝わりますよね。
だから指が曲がってたんだな。とか、だからきれいな女性の手がモデルじゃないんだな。とか。模写は描き手の想いに気づかせてくれます。
ちなみに、この作品はPraying Handsとして世界中で知られ、TATOOのモチーフやイラストにもなっているんですよ。
最近はAIを使えばトレースや模写なんて瞬ですし、なんなら生成AIで簡単に模造品が作れる時代。でも、AIには描き手の想いまでは汲み取ることはできないし、作品からも何のエピソードも生まれません。エピソードすら生成してしまえば別ですが・・・。
だからこそ、どこまで行っても人の想いや感情は大切だと思うし、結果だけではなくプロセスも大切にしたい。私たちはデジタル技術をお客様にご提案していますが、今後どんなに技術が発展しても変わらず大切にしていきたいと思うのです。



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