防災アラートは誰のための設計なのか。

ニュースで見てご存じの方も多いかと思いますが、THIRDPLACEの拠点である名古屋は記録的な豪雨災害に見舞われました。私たちスタッフとその家族が無事だったことはとても幸いなことでした。
災害が迫っているとき、スマートフォンに届く防災アラートは必要不可欠なものです。危険を知らせ、避難を促し、命を守るための重要な情報だからです。「通知が届かなかった」ことが重大な結果につながる場面もある以上、確実に情報を届ける仕組みは必要不可欠だと思います。
一方で、必要以上にけたたましく鳴り響くアラートは、精神的な不安を感じることもあります。実際一部の地域では防災無線のサイレンが鳴り響き、家の中にいても恐怖を感じたと聞きました。
外出先にいるときは、なおさらです。
災害時におけるスマートフォンは、単なる通信機器ではありません。雨雲レーダーの状況を確認したり、交通機関の運行情報を調べたり、一時避難場所を探したりするのに不可欠です。そして何より、家族と連絡を取るための重要な手段でもあるのです。
つまり、外出先にいる人にとってスマートフォンは、唯一の情報手段であり、家族とのホットラインともいえます。
そんな状況で、アラートが何度も鳴り、画面が点灯し、振動する通知が積み重なっていけば、当然バッテリーの消耗も気になります。ただでさえつながりづらい環境でのバッテリー消耗は電池以上に心も消耗してしまいます。
「防災のための仕組みが、災害時に必要な情報を得るためのスマートフォンの電池を消耗させてしまう」
そう考えると、少し皮肉な話にもなりかねません。
もちろん、アラートの必要性が十分検討されていないとかそういう話ではありません。むしろ、命を守るために必要な情報だからこそ、どのように伝えるべきなのかはアップデートされていかなければいけないと思うのです。
自宅にいる人と、外出している人では状況が違います。
車で移動している人と、徒歩で移動している人でも違います。
すでに安全な場所に避難している人と、危険な場所にいる人でも必要な情報は違うのです。
にもかかわらず、「対象地域にいる人には一律に同じ情報を、同じ音で、同じように届ける」という機能だけで十分なのだろうか。
こうしたことを考えているうちに、私は自分が普段関わっている販売現場のDX化にも同じことが言えるのではないかと感じました。
販売現場では、業務を効率化するためにさまざまなサービスやアプリ、システムが導入されています。
物件情報を見る。ローンシミュレーションをする。顧客情報を確認する。スタッフ間で情報を共有する。最近はVRやARといった技術も当たり前のように導入されています。
一つひとつの機能を見れば、どれも便利なものです。
しかし、機能が増えれば増えるほど、必ずしも現場が便利になるとは限りません。
むしろ、現場の状況によっては「使いにくい」「操作が多い」「必要な情報を見つけづらい」ということが起こってきます。
たとえば接客中の販売スタッフにとって、数多くの情報の中から必要な情報を探し出すことは、それだけで負担になるし、PCの動きが鈍くなればお客様にもストレスを与えてしまいます。
現場が混雑しているときと、落ち着いているときでは、アプリに求めるものが違う。
新人スタッフとベテランスタッフでも違う。
店舗の責任者と販売スタッフでも違う。
つまり、「何ができるか」だけではなく、「誰が、どんな状況で使うのか」まで考えられた機能が必要だと思うのです。
これは、防災アラートにも通じる話だと考えられます。
アプリを作る側からすれば、「この機能がある」「この情報を表示できる」ということは大きな価値ですし、無駄なモノではないはずです。
しかし、ユーザー目線で重要なのは、機能そのものではないのです。
自分が必要としている瞬間に、必要な情報が、必要な形で得られること。
そこに本当の価値があるのです。
DX化というと、どうしても「紙をなくす」「アプリを導入する」「データをデジタル化する」といった、技術や仕組みの話になりがちです。
けれど、本来のDXは、単にアナログをデジタルに置き換えることではありません。
現場で働く人の行動や心理、置かれている状況を理解し、その人がより良い判断や行動をできるようにすることです。
そのためには、サービスを開発・提供する側が「何を実現できるか」だけを考えるのではなく、「利用する人にとって本当に必要なのか」「その機能によって別の負担を生んでいないか」という視点を持つことが大切なのかもしれません。時には予算に合わせた最適化も必要かもしれません。
販売現場のDX化をサポートする立場として、「便利なアプリやサービスを作る」ことだけを目指していては本当に必要な人に届けられない可能性があります。
その機能やサービスは、誰のためにあるのか。
どんな状況で使われるのか。
採用することで、本当に現場は良くなるのか。
こうした問いを、持ち続けることが大切なのです。
その軸が明確であれば、機能を追加するときにも「これは本当に必要なのか」と問い直すことも可能だからです。
防災アラートは、人を守るための仕組みです。
その先にいる人が、安心して、迷わず、より良い行動を取れるようにすること。
今回の大雨をきっかけに防災アラートについて考えたことは、販売現場に提供するサービスの役割を考えるうえでの大切な気づきになりました。



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